ちょっと長めに書いてみました。

”「クロックタワー(Clocktowers)」”

Jolly RogerAlan R. Moon作。街に価値ある時計台をやたらに建てあうゲーム。謎なテーマですが、雰囲気あるイラストを見ているとそういうものかなという気がしてくるから不思議です。ちなみにこのゲームはボードゲームの「カピトール(Capitol)」のシステムを気軽い感じに上手く取りまとめたような構造になってます。元があるとはいえオモシロは異質。これはこれ、あれはあれというところですね。
時計台は、土台(階層)と時計本体と屋根の3パーツに分かれています。これを別々の山札としてセット。進行としては手札から何かのカードを建てるか捨てるかして、いずれかの山札から補充、山札が尽きたら完成した時計台の点数計算して終わりです。簡単。で、どこにアヤがあるかといえば、もちろん「建設に制限」です。
時計台を建設する際、まずは階層、その上に時計そして屋根を乗せて完成となります。階層をいくつ繋ぐかで時計台の高さを調整できるようになっています。屋根は5色の区別があるので「赤い屋根の3階建て時計台」というような捉え方をします。
制限というは、ある特定の色の時計台が建設されたら、以後はそれより正確に1階分だけ高い時計台しか建設できない、というものです。例えば青い屋根1階建ての時計台が完成してしまったら、次の青い屋根の時計台は必ず2階建にしなければならず、2階建がどこかで完成するまでは、青い屋根の3階建を建設することができません。また同じ色同じ高さの時計台は建設できないので、このあたりの攻防がキモなわけです。
自分の時計台は並行して建設していけるので備えることはできるのですが、そうそう都合よくもいきません。青がだめなら赤にしよう、なんて言えるのは最初だけです。それはなぜか。
このゲームのカード補充は全て表向きの山札から行います。しかも補充するパーツを選択することが出来ます。従って次に何を補充できるも、何を補充したかも丸わかり。更に手札の枚数が3枚とかなり少なめです。そこに自分に都合のよい色の屋根を確保しておくのは自分の手を狭めることになります。
高さの調整をかける階層のカードですが、一度時計を載せると以後は高さの追加ができなくなります。しかし屋根を乗せる為には時計は必須カードなので、目的の高さの目的の色の時計台を作る為には階層の確定から少なくとも2手番必要なのです。
この時計を載せるという一呼吸がゲームをオモシロなものにしています。屋根を乗せるまでに他プレイヤーができる一手番、高さをこれ以上伸ばせなくなるという縛り、しかし邪魔されないことがハッキリしていれば今後の展開を読めなくするお茶濁しの一手とすることもできます。手札を溜め込むことができないゲームなのでこうした先延ばしは時に重要です。
得点計算にクセがあるのも特徴。得点はもちろん完成した(屋根が載った)時計台からしか得ることはできませんが、その際あれだけ気にした時計台の高さは一切関係なく、その質のみが問われることになります。
どういうことかというと、時計台のパーツにはネコやネズミが描かれているものがあります。これらがパーツとして使用されていると時計台の価値が下がってしまうのです。何の動物も住み着いて居ないものが最も価値が高く、ネズミだけが住み着いているものが最も価値が低いです。ネズミはネコを招き入れることで被害を軽減することができます。しかしネズミを上手いカードプレイによって阻害できても、ネズミ除けと思って先に住まわせたネコが仇となり価値が下がってしまったりもするので、必ずしもネコが万能というわけでもないところが良く出来ています。
種類を気にして(屋根)、高さを気にして(建築順序)、その質を気にして(動物の有無)と、なんとも兼ね合いが大変なゲームに思えますが進行はとてもスムーズ。考慮することは多いのですが、とにかく手札が少ないので否応無く進行してしまいます。3択ワンプレイワンドローですから、嫌でも何でも一番被害が少なそうなカードを使う(もしくは捨てる)しかないのです。たいていの場合、3択のうちの1枚は1,2手番先に持ち越したい温存札になりがちですから残るは2択。ともかく自分の場を延ばすことが最優先ですから、厳しいながらも出すべき1枚は自然導き出されます。なので、テンポがそうそう悪くもならないのです。
「結局、なすがままってこと?これ、悩ましくないよね。」と思われそうですが、それは山札オープンされていることでカバー。3種類のパーツが全て表向き山札から補充できるということは、すなわちプレイヤー間で共有される手札として機能しているという捉え方ができます。だからこその先出し後補充。あれは正確には補充ではなく、自分の次手番に使用できるように、カードを共有手札から他者に先駆けて使うという認識をするべきでしょう。
良いカードは他人に使わせたくないものですが、共有手札から使えるのは毎手番1枚。悪いカードばかりが並んでいても必ず1枚は次手番のプレイヤーの為に使ってあげないといけません。こうした認識で遊ぶと「手札は6枚」。しかもうち2枚を使わなければならないのですから、かなりの悩ましさです。
このように様々な要素が複雑に入り組んだクロックタワー。この濃密さでありながら、ルールは国内流通分の和訳にして数ページ、原文にいたってはB5約半分の文章量ですからそのまとまり具合に驚かされます。トランプサイズの箱にはちょっと拍子抜けしましたが、かといってオモシロじゃないわけではないのです。まとまりサイコー。
元ゲーのカピトールと比較するとボードがなくシステムが簡潔な分、私個人としては若干物足りなさも感じましたが、このクラスの手軽いカードゲームの中ではかなりいいデキだと思います。文中では触れませんでしたが、めくり要素の隠れた熱さも見逃せません。
かなりイカスこのゲーム、機会があれば是非一度お試しください。