変態トリックテイクの真打ち登場。

”「トランプトリックゲーム!(Trump, Tricks, Game! )」”

久しぶりに「こりゃスゲーや!」ってな感じの惚れ惚れするトリックテイクが登場ですよ。サラっと流して遊んでもよし、キツキツに濃厚な味わいを堪能するもよし。良い意味でかなりの変態ぶり。驚愕の仕上がりです。ミラクルにオモシロ。控えめに言っても、今年度最高のトリックテイクであることは間違いないです、とか言ってみたり。


まず最初に。


巷のゲーマーたちに、「濃厚で変態なトリックテイクは?」と聞いて回れば、わりかし「バスシュティッヒ(Was Sticht?)」というのが基本回答というか、良く聞かれる返事だと思います。たしかにオモシロですよ。捻りのきいた内容だとも思います。トリックテイクの本質に関わるシステムですしね。私もかなり好きです。
が、しかし。
アレは「目標を規定数達成する」という形式を取ってしまったが為、プレイヤーの技量次第、達成率次第では結構なラウンド数を消化しなければならず、ゲームが長時間に及ぶことも少なくありませんでした。
繰り返し行なわれるカード分配、そしてトリック。口に出したい、でも出したくはない「これは間延びというものでは・・・?」という恐ろしい自覚。これに対する確実な自己防衛策といったら「お試しでショートゲームを遊ぶ、味見に留める」という選択くらいのものだったのです。
フルゲームを視野に入れると、「読めない時間を代償として」「気合を入れて臨む必要がある」「結構なマニアゲー」というポジションに落ち着いていたかと思います。好きな私としては非常に残念な話ですが。


ところが。ところがですよ。
本作「トランプトリックゲーム!」は、どんなに悪あがきしても4ラウンドで終了。慣れてしまえば20分程度で終わってしまうのです。それでいて、その濃密さたるや「バスシュティッヒ」に比肩するほどですからね。もう、猛烈イカス。
濃密と軽快という相反するオモシロを、両立させてもなお崩れない驚異のバランス感覚。それこそ針穴を通すキワキワなことをしているはずなのに、なんでしょうか、遊べばわかるこの懐の広さ。破綻、冗長とは程遠い、大いなる安心感。
「バスシュティッヒ」から10年。トリックテイク界に新たな変態トリックテイクが誕生してしまいました。しかも本作ならそれほど濃くないトリックテイク好きにも気軽にオススメできます。新時代の到来ですよ。
いやもうスゲー。本当にスゴイですこれ。


が。
実は一点危惧することがありまして。だもんで、ここまで煽りながらも、あまり詳しい内容には触れないでおこうかと思っていたくらいなんですが。
でも触れてしまいますよ。もうね、これを説明せずして何を説明するのかと。本当はだいぶ濁して説明するべきなんでしょうが、もう無理。和訳みたいになるかも。っていうか、ルールは猛烈シンプルなので、純粋な和訳より長いくらいだと思いますが。
とにかく「買って」ください。本作にはその価値がありますし、こんなミラクルなゲームをカタチにしちゃったギュンターブルクハルトさんに還元してやって欲しいわけです。きっと日本流通時は1800円くらいのはず。これを買わずしてトリックテイクは語れませんよ。それほどの伝説が今まさに。


さて。


ようやくゲーム内容の話ですよ。長い前フリでしたね。いやはや。
本作は「動物相手の狩猟」を題材にしています。足跡を追いながら少しずつ狩りの対象へと迫り、見つけた!とばかりに次々と仕留めていくというイメージ。たしかにそういうイメージはシステムにも投影されています。
カード構成は1〜12の4色デッキ。色ごとに異なる動物が描かれていて、「熊」「猪」「ムフロン(野生の凶暴な羊)」「狼」といった具合にとても狩られそうな顔ぶれ。これら基本カードとは別に、4色に対応した切り札表示カードが4枚あります。
内容物これだけ。
いやもう、お願いですから買ってください。頼みます。


で。


各色1〜12のうち「真ん中らへんの数字5つ」に1〜3個の足跡がそれぞれ印されています。想像付きそうですが、頑張って濁してみましたよ。ニクイ数字とだけ言っておきましょうか。これ以降も気合入れて濁していく予定。細かいところには全く触れないでおく予定。
ゲームの進行。
まず最初に切り札表示カードをシャッフルして、縦に四枚、表向きに並べていきます。これは上から1・2・3・4ラウンド目の切り札色を表してまして。本作では、ゲーム開始の段階から、最終4ラウンドまでの切り札の順番&内容が明らかにされているんですなあ。なんとも無駄なく計画的。
で、手札を配ります。もちろん配りきり。するってえと、各プレイヤーの手元には12枚のカードがあるはずです。3人プレイでも一緒。一部のカードが抜かれて調整入ります。
これから、以降4ラウンドのトリックテイクを行うわけですが、後にも先にもカードを配るのはこれ「一回きり」です。って、勘のいい方はもう気付かれたかもしれませんね。とりあえず先立って愕然としておいて下さい。ともあれ詳しくは後述。
トリックそのものは切り札ありのマストフォローと至って平凡。フォローできない場合は、切り札でもそれ以外でも任意で出せます。よくある感じでトリックを解決して各々がカードを獲得、引取っていくと。
が。
ラウンド中に各プレイヤーはトリックを3トリックずつしか獲得しません(4人プレイ時)。それ以上はないし、逆にそれ以下でもないのです。
既に3トリックを獲得したプレイヤーは、マストフォローの原則に従う義務はあるものの、トリックを獲得する権利を失います。
余談ですが、このへんちょっと同作者の過去作「ウィリー(Willi)」を思い出しますね。あれもまた、ちょっとアタマがイカレた感じのオモシロトリックテイクでした。きっとあれを精錬することで、偉大なる本作に辿り着いたのでしょう。全くの憶測ですが。
ま、それはともかく。
権利を失った以降は、「プレイヤー」というより「マストフォローマシーン」になるわけですよ。切り札きろうが何しようが一緒。ただ、「相手の得にならないように残りのカードを放出する」ってことだけは依然として留意しておかないといけませんが。
で、なんやらかんやらあって、ラウンドを終えてカードを3トリックずつ獲得したら、得点計算に移ります。
「獲得したカードに印された足跡マークの総数」に、
「『足跡マークが印された』動物カードの色数」をかけた数字がそのまま得点に。
要するに、いろんな動物の足跡を収集しておけってことです。
その点数をスラスラと紙に書き残したら、次のラウンドが始まりますよ、もちろんですが。
手札はもう手元にあるので、前述の通り、配る必要はありません。ソートも既に終わっているはずです。丁度12枚ありますよね。獲得したカードが。


出た。出ましたよ。変態ぶり炸裂。


このルールによって、ディール直後の1ラウンド目以降は、手札内容を何度となく晒し、確認しあいながらゲームが進行するのです。なんてこった。
1〜3ラウンド(注目!)まではこの調子で「3トリックで」「まんべんなく」「中心くらいの数字を獲得するように」立ち回ることになります。トリックテイクの妙、マストフォローのオモシロを堪能できると同時に、プレイヤーたちがこの得点方式を意識することによって、プレイ中の極端なカードの偏り(色、ランク)が防がれるわけです。なにせ「カードを配りなおさない」ので、どちらのルールが後先なのかはわかりませんが、それぞれが補間し上手く機能しています。必然ともいうべき収まり具合。
3トリックしか取れないということもこの得点計算方法と相まってジレンマを生みます。あるプレイヤーがラウンドで大きく得点を伸ばしたとしても、次のラウンドでは依然として3トリックしかとれませんから、今回得点源となったほとんどのカードを他人に対して放出することになるわけです。
他人の獲得したトリックの動向にもよりますが、得点カードが途端に足枷に変わる可能性があるんですなあ。大量得点のあとのラウンドを単に凌ぐだけのものにするか、更なる得点に繋げるかはプレイヤーの技量次第。マストフォローと3トリック制限を遺憾なく活用し、他人には極力くだらない内容のトリックを取らせていくというオモシロ。


が。
この辛く悩ましい原則は4ラウンド目では「あっさりと捨て去られ」、
ゲームは劇的な変貌を遂げます。
だもんで、展開としては
1〜2ラウンド 助走
3ラウンド 加速
4ラウンド 飛躍
という感じになりますね。


ということで、問題の4ラウンド目の話。
4ラウンド目に突入すると、先ほどまでとはうって変わって「トリック取り放題」になります。あと、足跡とかももう無関係。どれだけ取ろうが得点のとの字にもなりません。
地道に静かに足跡だけを追う時間は終わったわけですよ。ここからは狩りの時間。
トリックをとにかく取りまくって、最終的に取ったそれぞれの動物カード一枚につき、1〜4点を獲得します。
カード総計120点の猛烈な奪いあいです。それも定番の切り札ありマストフォローで。
結果、立ち回り方次第では大逆転のチャンスもあると、そういう感じなんですよね。3ラウンド目での得点を捨てて最終4ラウンドに向けてカードを偏重させてもよし、コンスタントに得点を重ねて結果的に他人には得点させないようにしてみたり。なにせ得点の奪い合いですからね、他人が逆転できない程度に自分が得点しておけばいいんです。なんていやらしい攻防かと。





とまあ、長々と説明してみましたが、こういうカドゲです。頑張って濁せたと思います。我ながら。
っていうか、どうですかこれ。
手札が完全に晒されていることといい、マストフォローを弄ぶような流れといい、唸るスバラシさ。よくこんなの考えたなという驚き。これだけ多種多様なトリックテイクが発売されている中で、なおキラメキを放つ異彩ぶり。昨今のトリックテイクの中では群を抜くオモシロですね。
1〜3と最終4ラウンドの得点方法の違いと、トリック獲得制限の有無にも注目ですよ。マストフォローとの付き合い方が全く違ってきます。イカス。この変貌ぶりは驚異。20分の中にもドラマを滑り込ませる熱い仕掛けです。作者偉大。


ちなみにこの基本ルール以外にも「よりゲームを戦略的にする」と注釈の入ったオプションルールがあるんですが、これを導入すると途端に本来の軽快さというかシンプルな縛りの妙みたいなのが失われると思うので、個人的には導入を勧めません。ということで紹介もしませんよ。ええ。
ただ、こうしたオプションルールを添付した背景には、おそらく情報公開型である本作の運要素に対する危惧みたいなものがあると思います。考えてみれば、最初のディール自体は完全にランダムだという点、そこにマストフォローがイヤな感じに絡めば、「運ゲー」呼ばわりされる可能性がないとも言い切れないでしょうし。状況次第とはいえ、本作がそんないわれ方するのはあまりに作者も不本意でしょうからねえ。
でも私はこのくらいが「次を遊ぼう」に繋がって丁度いいと思います。なにせ20分ゲー。



ともあれ、近年稀にみるデキなので、
「オイラはトリックテイク好きなのさ」という人々は
マストバイということでよろしくお願いします。
スバラシイ。