アオスライサー(Der Ausreisser)

”「アオスライサー(Der Ausreisser)」”

とにかく先頭から離されないように走りまくる自転車レースゲー。ギリギリの攻防が熱くてわりにオモシロ。この世界のことはあまりよくわからないんですが、聞くところによると、その雰囲気を気軽に楽しめる良作カドゲという分類らしいですよ。ちなみに、最近再販されたらしいです。過去には「サイクルレース」というタイトルで流通していましたが、後に同名ボドゲが発売されて、あげく大賞受賞してしまったので、混同を避けるため、現在の表記に落ち着いた模様。
で、内容。
特殊カードも少しありますが、手札として配られるのは大体「速度カード」と呼ばれるもの。39〜50kmまであって、これを出すことで走る速度を速くしたり遅くしたり。レース終了まで走りまくります。終了は補充の山札切れ。刻一刻とゴールが近づく様が見て取れます。
手番にはとにかくカードを出す。で、走る。それだけです。が、その意味合いが、順位っていうかポジションによって違ってくるという話。
ポジションで一番いいのは先頭。後続を引き離すようにグイグイ走ります。先頭を維持したままゴールできたら勝利。1着ってわけですな。
あ、そうそう。このゲームでは特に盤面というのがありません。また、カードを並べて順位を表したりしません。どうするかというと、全てを、先頭走者と比較した「状態」として捉えます。具体的にいうと、「先頭」か「先頭集団」か「それ以外」か、ということ。TVのマラソン中継とか見てもそうですよね。先頭集団は先頭争いがあるので注目されますが、それ以外は「先頭から何分遅れ」みたいな取り上げられ方しかしません。ちょうどあの感覚で、このゲームは進行します。
ということで、続き。ポジションの話。
先頭走者以外の「先頭集団」、すなわち「後続の方々」は先頭の速度に追走できないと、遅れて「それ以外」になってしまいます。先頭が50kmで走れば後続も50kmで走る。あたりまえですが、これが追いすがるということですね。他人のペースに合わせるってのは結構大変です。しかし、後続には特典がありまして、それが「風除け」効果。後続は、先頭走者の速度の-2kmまでなら、追走できたとみなすことが出来るというものです。これがあるので、後続は先頭よりも若干ながらカードを温存できます。手札状態を改善し、機をみて先頭に躍り出るってわけですね。
もし、後続が先頭より3km以上遅れてしまうと最悪。恐怖の「それ以外」タイムに突入してしまいます。時間的な遅れをチップに換算して受け取り、大罪を背負うかのように自転車を漕ぐのです。
これがまた非常に厳しい状態でして、後続の特典である、風除け効果すらありません。1kmでも遅れるとドンドン遅れをあらわすチップを受け取らされます。これを解消する為には、気合で先頭走者よりも速度を上げて、遅れを取り戻す他ありません。しかし、遅れだした、という状態に陥っていること自体「手札の状態があまりよくない」ってことですから、再び先頭集団に戻ることは極めて困難。だもんで、「遅れないこと」を大前提というか大目標としてゲームは進行します。かなり過酷です。
そこに、その他特殊カードが彩りを加えつつ。スパートカードでここぞの速度を手に入れたり、向かい風の煽りを受けて速度が落ちてしまったり、追い越し不可の坂道で風除け効果がなくなったり。派手なカードは別段ないように思えますが、それは誤り。レースをしている側からすれば、極めて劇的な変化でキツイ効果ばかりです。ちょっと文面では判りにくいんですけどね、遊んでみると強烈に思い知らされます。

とにかく先頭を巡る攻防が熱いです。抜きつ抜かれつ。もはやサバイバルの域。先頭集団からの脱落=敗北にも似た厳しさが。
先頭はレースのペースを作ることができるので気楽。しかし、先頭を走りつづけることは非常に困難。風除けで温存してきた後続が颯爽と抜き差って、先頭で猛威を振るうという仕組み。そうならないよう、敢えて抜かれたりすることも戦略として時には重要。後続に先頭を譲って、喜ばせてやればいいんです。後で、それがぬか喜びだったということを思い知らせてやればいいだけの話。ヒドイ。でもイカス。
もちろんカドゲですから、めくり運もありますし、どうにもならない状況というのもたしかに存在します。ズルズルと遅れて、山盛りチップが溜まっていったりとか。そこはそれ、気軽かつ短時間カドゲの宿命ですよ。しかし、引き運次第では、そこから不死鳥のように復活することも不可能ではないですから、それを信じてふつふつと闘志を燃やすのです。ゴワーっと。こんなところにもまた、熱いドラマが潜んでいます。

長距離レースの厳しさってヤツを思い知るカドゲ。勢いでワーワー遊ぶのにとても適した作りです。多人数向けなのもステキ。できれば5人以上で遊びたいところ。それ以下でも遊べますが、山札を全て使い切るという構造上、人数が多い方がより白熱した展開が期待できます。使いでの無い「遅いカード」が分散するため、脱落しにくくなりますし、また、逃げ切るために必要な「速いカード」の割り当て枚数が減るので、先頭を維持するのが難しくなります。結果として、より全員にチャンスがあって激しいデットヒートが発生する、ということですね。
感覚として、こうしたレース中の攻防というか駆け引きは、表になりにくいので馴染みが少ないかもしれません。先頭が速度を上げた、それに追走する、前に出た、追いすがる、全体がペースアップ、これでは終盤まで持たない、先頭をはじめペースダウン云々。見る側からすればとても判りにくい部分ですからね。むしろ、アスリートのみが知りうる感覚といっていいかもしれません。そう考えると、このゲームは疑似体験にも似たオモシロがあるのかも。なんて。
最初はピンとこないかもしれませんが、これは存外遊べます。ゲーム全体に流れがあるので、流れ次第では「ん?」という時もありますが、古いゲームってのは概してそういうものです。成立1991ですからね、これ。