今日もちょっと長め。

”「コリドール(Quoridor)」”

2人でも4人でも遊ぶことができるオモシロな迷宮系アブストラクト。異常にオモシロ。雑に遊んでも良し、シビアに計算しても良し。これは傑作。基本は同じなのでまずは2人で遊ぶ場合の説明をば。
ボードには碁盤目状に溝が掘られていてマスを形成しています。それぞれ自分の手元側の岸に自駒を配置。目的は交互に手番を繰り返しながらボードを横切り、相手側に自駒を渡らせること。
手番にできることは2つ。自駒を任意の方向に1マス移動させるか、ゲーム開始時にそれぞれ10枚ずつ与えられた木片を溝に差し込み「壁」をつくるか、です。また、移動の際の特例として、自駒が相手駒と隣接した場合は飛び越えることができます。「1マス余分に進める」ということですね。1マスと侮るなかれ、1マスは非常に大きな差です。
このゲームをオモシロにしているのは「壁」。そう、「壁」の攻防です。
木片は常に2マスにまたがるように配置されます。溝にずるりと差し込むわけです。するとそこには壁が現れて、駒の移動を阻みます。飛び越えることもできません。ゲーム開始時、ボードには何の妨害物もありませんから、何の邪魔もされず駒が一直線に対岸に渡ることができれば10手とかからずゴールしてしまいます。基本的にはこの壁で相手の駒をより遠回りさせるように行く手を阻まなければならないのです。
さて、この壁の配置には一つだけ原則があります。それが「盤上にある全ての駒がゴールに到着できるように、最低限の通路が残るよう考慮しなければならない」というもの。これがあるために四方を囲まれてにっちもさっちもいかなくなった、ゴールに辿りつけませーん、なんてことだけはないのです。
しかし救済に見えるその原則も、実は思いのほか極悪。
例えば。座標位置で自駒がどんなにゴールに近づいていたとしても、新たな壁が設置されることで行く手が阻まれてしまえば、どんなに遠回りになろうと来た道を戻って、別ルートからゴールに向かわなければなりません。それまでに移動してきた手番は全て損失。全くのムダになるのです。そして1マスずつ動かして地道に迂回。考えただけでも恐ろしい状況ですが、このゲームではとてもよくある話。
なので、この原則を防御にも活かさなければなりません。この壁はそうした極悪な攻撃から身を守る術でもあるのです。相手に行く手を完全封鎖されるまえに、自駒が後戻りできないよう今来たルートを封鎖。すると件の原則がありますからこうなしてしまえば逆に安心。自分から先手を打って他の危険な可能性を潰していくことで、確実に前進することができます。このように、この壁の配置は攻防を兼ねています。ものすごく重要なわけです。
もちろん、そんなに便利な壁がそうホイホイ使えるわけもなく、漫然と使うとすぐになくなります。広い盤面にたった10枚しか使えないのです。しかも、この盤面の広さがまた絶妙。10枚を立て続けに配置するだけでは、相手を止めて、自分のルートを確保することはできません。徐々に様子を見ながら、相手が自分を邪魔するために配置した壁やルート確保用の壁を逆手にとって、うまく自分の移動計画に取り込んでいかなければ勝ち抜くことができないのです。ちょうど2人で20枚使ってやっと盤面に迷宮のような通路が現れてくるくらいのバランス。結構シビアですよ、これは。
さらに。盤面のマス数は両辺ともに奇数です。壁は2マスに跨いで配置されていきます。それゆえ、奇数分だけマスを残すように意識して壁を配置することが非常に重要になってきます。奇数になれば通路を封殺するにも手間ですし、仮にそうなっても相手は壁を消耗することになります。壁はこのゲームでは生命線なので、よほどのことでなければその選択はないのです。
こうした苛烈な攻防を繰り広げながら、もし同じルートを進むことがあればすれ違う際、前述のように駒を飛び越えることができるのです。すれ違うという状況もなにやらカッコイイですが、それよりも飛び越えられた瞬間の悔しさったらないですね。「ああ1歩持っていかれた」という強烈なゲンナリ感。仮に盤面の状況ではリードしていたとしても、気持ちで逆転されます。やっぱり飛び越え重要。
とまあ、こういうゲームなんですけども。本当にオモシロです。ケッサク。発売元のGIGAMICは過去にいくつも斬新かつオモシロな名作アブストラクトを作っていますが、なかでもこのゲームははちょっと異質。直接攻撃性が極端に強いので、打たれ弱い人だと目に涙が浮かぶ可能性アリ。しかし直感的にも理解しやすく、1度遊べば攻防の機微が身につくというスマートさは見逃せません。慣れるとホイホイ進む良いゲームです。
そういえば似たようなシステムを持つゲームとして「アトス」がありますね(過去の所感はこちら)。あれもルートを封殺する系の邪魔しあいタイル配置ゲーでした。確かに、あれにはあれのオモシロがありましたが、コリドールと比べればもはや冗長の域。コリドールの洗練には魔物が潜んでいるのです。もうサイコー。
ちなみに四人で遊ぶときは四方から始まって対岸へと大移動します。交差ですね。しかも木片は各自5枚。2人で遊んだ経験があると、かなり心許なく感じます。あまりの少なさに最初からゲンナリさせられます。また4人だと全員の思惑が複雑に絡む分、荒れた(&派手)なゲーム展開になる感じ。シビアさは若干薄れるのでキツキツすぎるのはイヤ!という方にもオススメ。人数を変えると違う魅力を楽しむことができるようになる、なんとも華麗なバランスです。
あー、だいぶ褒め称えてしまいました。しかしその価値はあります。取り寄せれば国内入手も可能なはずなので是非。マストバイ。